17-10. ミトコンドリアDNA減少が乳がん転移の原因になるらしい!?

  このところ我々真核生物の動力機関であるミトコンドリアに関する新しい知見が相次いで報告されてますが、当ホームページのツールの一つであるmtDNAとがんの間の相関関係がまた一つ明らかになりつつあります。

     「Oncogene」の2013年11月4日版に、「ミトコンドリアの後退するシグナル経路は上皮-間充織の推移を引き起こし、乳癌幹細胞を生成する。」、つまりmtDNAの減少は乳がんの幹細胞の生成につながるらしいことが報告されました。

  という訳で、論文とBioquicknewsの解説記事をご紹介します。
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Mitochondrial retrograde signaling induces epithelial?mesenchymal transition and generates breast cancer stem cells

M?Guha, S?Srinivasan, G?Ruthel, A K?Kashina, R P?Carstens, A?Mendoza, C?Khanna, T?Van Winkle and N G?Avadhani

Oncogene, 4?November?2013; doi: 10.1038/onc.2013.467

Metastatic breast tumors undergo epithelial-to-mesenchymal transition (EMT), which renders them resistant to therapies targeted to the primary cancers.
The mechanistic link between mtDNA (mitochondrial DNA) reduction, often seen in breast cancer patients, and EMT is unknown.
We demonstrate that reducing mtDNA content in human mammary epithelial cells (hMECs) activates Calcineurin (Cn)-dependent mitochondrial retrograde signaling pathway, which induces EMT-like reprogramming to fibroblastic morphology, loss of cell polarity, contact inhibition and acquired migratory and invasive phenotype. Notably, mtDNA reduction generates breast cancer stem cells.
In addition to retrograde signaling markers, there is an induction of mesenchymal genes but loss of epithelial markers in these cells.
The changes are reversed by either restoring the mtDNA content or knockdown of CnAα mRNA, indicating the causal role of retrograde signaling in EMT.
Our results point to a new therapeutic strategy for metastatic breast cancers targeted to the mitochondrial retrograde signaling pathway for abrogating EMT and attenuating cancer stem cells, which evade conventional therapies.
We report a novel regulatory mechanism by which low mtDNA content generates EMT and cancer stem cells in hMECs.
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  Bioquicknewsの紹介記事です。

Reduced Mitochondrial DNA May Lead to Breast Cancer Metastasis

以前から研究者は、侵襲性の強いタイプの乳がん患者のがん細胞にはミトコンドリアDNAが少ないという観察結果に注目していた。しかし、そのような特徴ががん進行にどのように影響するのかということについては誰にも分からなかった。最近になってようやく、University of Pennsylvaniaの研究チームが、ミトコンドリアDNAの減少で人間の乳がん細胞が侵襲性の強い転移性を獲得することを明らかにした。2013年11月4日付オンライン版Oncogene誌に掲載されたこの研究論文は、なぜ一部のがんは他のがんに比べて進行も広がりも速いのかという疑問を解明する新しい手がかりを与えており、臨床医にとっては特に侵襲性の強いがんの患者を特定するバイオマーカーとして利用でき、治療法の個人化を進める上で役立つと考えられる。

この研究は、Penn School of Veterinary Medicineの主任研究員、Dr. Manti Guhaと、Department of Animal BiologyのHarriet Ellison Woodward Professor of Biochemistryを務めるDr. Narayan Avadhaniが指導して進められた。また、共同研究者として、Penn VetのDr. Satish Srinivasan、Dr. Gordon Ruthel、Dr. Anna K. Kashina、Dr. Thomas Van Winkleが参加しており、その他にもUniversity of Pennsylvania, Perelman School of MedicineのDr. Russ P. Carstens、National Cancer InstituteのDr. Arnulfo Mendoza、Dr. Chand Khannaらが加わっていた。

哺乳動物の細胞の原動力と言われるミトコンドリアは同時に信号司令部でもある。ミトコンドリアは細胞の代謝活動に重要な関わりがある他、アポトーシスを司っている。このアポトーシスは、プログラムされた細胞死というもので、がん化する可能性のある細胞が増殖し、広がる前に殺される仕組みになっている。それに加えて、ミトコンドリアは独自のゲノムを持っており、細胞核DNAと連携して特定タンパク質コードを発現、細胞へのエネルギー配給を調節している。

哺乳動物の場合、各細胞に100個ないし1,000個のミトコンドリアDNA複製が含まれているが、過去の研究で、乳がん患者の80%程度までに細胞のミトコンドリアDNA (mtDNAとも) 減少が起きていることが突き止められている。mtDNAの低レベルとがんやその転移を引き起こす細胞の変化との間の結びつきを解明するため、Dr. Guha、Dr. Avadhaniの研究チームは2種類のシステムを立ち上げ、細胞内のmtDNAの量を作為的に減らせるようにした。システムの一つはDNAを劣化させる薬品を用い、もう一つのシステムでは遺伝的にmtDNAの量を減らすようにした。その上で、正常なヒトの非がん化乳管細胞と、上記2種類のいずれかの処置を施した乳がん細胞とを比較し、mtDNAに何の操作もしていない細胞との違いを調べた。

その結果、mtDNAに何の作為もしていない細胞と、mtDNAを減らした細胞とには大きな違いが現れていた。mtDNAを減らされた細胞は代謝が変化し、構造も無秩序になって、むしろ転移がん細胞に似ていた。

非腫瘤化乳管細胞さえ浸潤性を持ち、がん細胞に似てきた。しかも、mtDNAを減らされた細胞は自己再生を始め、乳がん幹細胞特有の細胞表面マーカーを発現するようになった。Dr. Avadhaniは、「乳管細胞のミトコンドリアDNAを減らすと、細胞はがん幹細胞のような挙動を始める。転移プロセスを始め、身体の末端まで行くために、増殖と移動という幹細胞独特の性格を獲得する」と述べている。また、Dr. Guhaは、「ミトコンドリアDNAのコピー数が低い患者はおおむね予後が良くない。私たちの研究はこのミトコンドリア不足でどういうことが起きるかを実証し、侵襲性の乳がんのバイオマーカー候補を見つけた。将来、mtDNAとミトコンドリア・シグナリングに関わっている因子が、転移の可能性を示すマーカーとして、また、がん幹細胞の治療介入のために利用できるようになるかもしれない。転移の原動力であるがん幹細胞の特異的誘導因子はまだ判明しておらず、そのためにも私たちの研究成果がこの分野を大きく前進させたのではないか」と述べている。

まったく同じ乳がんは二つとしてない。したがって、特に侵襲性が強く、急速に転移するタイプのがんを発症するリスクの高い患者をより分ける方法が見つかれば、医師にとっても患者に合った治療法を選ぶ上で大いに助けになる。現在、研究チームは、細胞のミトコンドリアDNA量と転移がんとの関わりを結びつけているシグナル経路の未解明の部分を徐々に埋めていっている。次の段階として、Dr. GuhaやDr. Avadhaniと研究チームは、研究対象を生体マウス・モデルに広げることを考えており、さらに乳がん患者から取り出したがん試料を使ってこれらの機序を探る作業が待っている。

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  我々人類のDNAの40%以上は過去に感染し共生化した内在型レトロウイルス由来のDNAが占めており、しかもその内在型レトロウイルスが進化の要因の一つだったことは記事13-1でご紹介した通りです。また全真核生物の動力機関のミトコンドリアも過去に共生した他の生物(恐らく藍藻類か?)ということは既に常識になっています。つまり生態系の最上位に君臨する我ら人類といえど過去に共生した他の生命体を抱え込んで成り立っていることが明らかにされつつあるのです。

  レトロウイルスは遺伝子の中に完全に組み込まれ一体化しているにもかかわらず、ウイルスの活性を失っているわけではなく、白血病のように突然牙をむき再活性化することがあるのです。ミトコンドリアも専任の動力機関という単純な役割だけではなく、長い共生期間の間にいろいろな役割を分担してきたようです。母親からのみ遺伝するmtDNAはどうやら乳がんの転移を抑える役割を持っているようなのです。

  また記事17-7でご紹介したように、細胞核のDNAとmtDNAは共進化してきたらしいことも明らかになりつつあります。恐らく今後も次々にミトコンドリアの新しい役割がわかってくるでしょう。動力源を受けもつと言うことは実は偉大なことなのです、多分!!



以上

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