1-15. コーカサスはバルカン半島並みの遺伝子が複雑な地域

  手持ちの論文をまとめ直し、バルカン半島と並ぶ紛争地であるコーカサスのY-DNAの調査結果を報告しますのでご興味のある方は 是非いろいろな情報を併せてお読み下さい。

  コーカサス地域は最古の民族ともいわれるアルメニア人やスターリンの生まれたジョージア(旧グルジア)人が居住する地域です。 アルプスで発見されたアイスマンのY-DNAが「G」であることから、アイスマンの先祖の発祥の地はコーカサスだろうと言われています。 5000m級のコーカサス山脈が中心に位置する高度の極めて高い土地になり、恐らくアイスマンの系統は同じ高度地域のアルプスに 移動してきた可能性があります。
  バルカン半島と同様に、多民族、多言語、複数の宗教が交錯する地域になります。そして古代遺伝子のY-DNA「F」から初期に 分化したコーカサス遺伝子のY-DNA「G」、次の世代でクロマニヨン人/ノルマン・バルカン遺伝子のY-DNA「I」、 メソポタミア農耕民・セム族遺伝子のY-DNA「J」が恐らく分化発祥した地と考えられています。
  少し時代が下がると、欧米の主要遺伝子であるY-DNA「R1a」と「R1b」が移動を開始したときに「R1a」は恐らく黒海の北方から南下し、 「R1b」はカスピ海南岸/イラン北部あたりから北上しコーカサスに入ったと考えられているようです。

  イラン人のペルシャ帝国、テュルク語族のチムール帝国、セルジュクトルコ帝国やモンゴル族が後代に覇権を握り、テュルク語族の オスマントルコ帝国解体後はロシア更にソ連が支配者となり、ソ連の解体後ロシア内に留まった地域と独立した地域に分かれています。
  この地域の複雑に加え、国境を接するトルコやイランそして独立国を持てなかった最大の民族クルド人がこの地域をますます複雑 にしています。   それでも混沌の国インドに比べれば大した民族数・言語数ではありませんが、宗教が加わり少なくともバルカン半島並みの 複雑さになっています。  しかしバルカン半島は民族の人口が比較的大きく、それなりにまとまっているのですが、 コーカサスは数千人程度の人口の民族(部族程度か)も多く、 高度の高い地域で隔離され孤立し希少民族化してきたような様相を示しています。

  Y-DNA調査では2001年のWells論文が最も古く、まだ亜型名が確立する前で分類に若干疑問が残るのですが、 2004年にNasideらがWellsデータを改めて見直し亜型名に当てはめたため、Wells論文は使えるものになりました。 民族としてはルトゥール人(Rutulians)のように狭い地域に局在している民族もあれば、 チェチェン人(Chechens)のように複数の地域にまたがって居住している民族もあります。 スヴァン人のように1種類の遺伝子亜型が大多数を占める民族もあれば、複数の遺伝子が拮抗する民族もあり、 民族の成り立ちが単純ではないことを調査の結果は示しています。
  おそらくコーカサスの歴史に相当精通していても、遺伝子の流れを説明・解明するのは難しい気がします。 当ガラパゴス史観も以前集めた論文を再度読み直して今回Y-DNAの亜型分布を提供しますので、本サイトをご覧になった方は、 自分なりのコーカサス民族の動きを、 コーカサスの歴史と併せて構築してみて下さい。


  コーカサスは山岳地帯を中心に西は黒海、東はカスピ海に挟まれた 独特の地域になります。ノアの箱舟のアララト山は上図左のTurkeyの国名のすぐ右そばになります。 原始キリスト教の7つの教会は全てアナトリアにありましたが、40年前にその中の1つをイスタンブール駐在時代に訪れています。 いまはイスラム教のアナトリアですが、実はキリスト教の確立した重要な土地でもあるのです。
・上図左は国名とロシアの地方名が分かります。Wikipediaから拝借しました。
・上図右はこのY-DNA調査の代表的な民族の調査地域を表し、論文から拝借しました。
・左図は民族と言語の分布図ですが、興味のある方はWikipediaの原本をご覧ください。
・古代遺伝子の1つであるY-DNA「F」は、インド亜大陸で現代文明人の大半を占める
 Y-DNA「G」以下の全ての遺伝子を分化させる基礎を築きました。
・この地からY-DNA「G」はコーカサスに移動し古くはアルプスで発見された「アイスマ
 ン」、近代ではソ連の「スターリン」を生み出しました。
・「F」は「G」と「HIJK」に分化し、「HIJK」は更に「H」と「IJK」に分化し、「H」は
 インド亜大陸に居住したようですが、インド亜大陸では主役になれず、一部はジプシー化
 しました。
・またコーカサスは、「IJK」からY-DNA「I」,「J」と「K」が分化したのではないかと考
 えられています。
・Y-DNA「I」は、後にクロマニヨン人となり、さらにバイキングのノルマン系「I1」とバ
 ルカン系「I2」を分化させました。
・Y-DNA「J」は、後にセム系の「J1」とメソポタミア農耕民系の「J2」に分化し、「J2」
 は「G」と共に肥沃な三角地帯に移動しメソポタミアに農耕文明を興したようです。
・「K」はさらに「LT」と「K2」に、「LT」は「L」と「T」に分化し、「L」はインダス文
 明系のちにドラヴィダ人を形成したと考えられています。
・「T」はアメリカ第三代ジェファーソン大統領の遺伝子です。
・「K2」からシベリア・ウラル系遺伝子「N」、極東系遺伝子「O」、インディオ系遺伝子「Q」 そして最後にインド・アーリアン系遺伝子「R」が分化しました。
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  結果をまとめて見ました。古い遺伝子頻度の高い順に主要な民族をご紹介します。
  2001年頃のWellsの論文から2011年の比較的新しい論文まで新旧データが入り混じっていますが、他に参照できるデータもないので そのまま強引にご紹介します。
  この地域はアレキサンダー大王の古くから各帝国が占領してきており、どの遺伝子がどの時代から居住していたのかはなかなか 難しい問題ですが、Dagestanのギリシャ語を話す集団はアレキサンダーの一団の末裔と考えれているようです。 モンゴル帝国のY-DNA「C」も占領軍の末裔としてカルミーク(Kalmyk)人に残っています。
  ペルシャ帝国時代のイラン系も存在し、インド・スラブ系の「R1a」は「R1b」と分化し移動を開始した古代系の末裔と、 近代ソ連人の系統が混じっているはずです。
またゲルマン民族の大移動を行ったY-DNA「R1b」のケルト・ゲルマン系の末裔がロシアのバシキール(Basikir)人や バグバラ(Bagbalal)人やテュルクメン(Turkmen)人として残っています。 「R1b」は恐らくアナトリアから更に南下しアフリカ大陸に入り、チャド語系の民族を形成し、 その移動の事実はアフリカ神話にも残っています。

  古代人の移動は、出アフリカによるホモサピエンスの大移動、Y-DNA「Q」の出シベリア後のアメリカ大陸の北南縦断の大移動、 オセアニア集団の東南アジアからの出アジアなど国境が制限している現代社会からは想像も出来ないほどダイナミックで広域なものでした。
  それほど古くは無くてもシベリア系遺伝子Y-DNA「N」のシベリア大陸横断によるウラル化があります。
  我々現代人は民族、言語、風俗習慣など国境が確立されてしまった環境の中で生きているため、人々の違いに敏感ですが、 実はネアンデルタール人とホモサピエンスの交配による遺伝子の受け継ぎの事実など、 古代に遡れば上るほど人々は違いを越えて交配しあい、新しい土地で新しい遺伝子が分化してきているのです。

1.スヴァン人(Svans)
  アルメニア人が世界最古の民族と言われていますが、遺伝子調査の結果だと 古代遺伝子の1つであるY-DNA「F」の頻度が高い、スヴァン(Svan)人やルトゥリア(Rutulian)人のほうが古いかもしれませんね。 スヴァン人はジョージア(グルジア)とロシアの国境のグランドコーカサス山脈の南山麓に居住しています。 要する「G」によって標高の高い土地に追い出されたと考えられます。 同じ古代遺伝子Y-DNA「D」頻度の高いチベット人がY-DNA「O3」にチベット高原に追い出され、 最極東の日本列島に同じ「D」縄文人が残ったように。僻地に古代が残る例のような気がします。

2.ルトゥリア人(Rutulians)
  ロシア・ダゲスタンのグランドコーカサス山脈の北山麓の狭い地域に局在しています。「G]の頻度も高いので「G」の拡張に伴い 「G」が入り込んできたようです。

3.アバジニア人(Abazinians)
  スヴァン人のすぐ北隣、グランドコーカサス山脈の北山麓に居住しています。元は同じ集団だった可能性もあります。 「F」と「G」が同程度なので、「G」の拡張で入り混じり民族が分かれたのかもしれません。「R1a」も多いのですが後世のスラブ系なのか、 インド・アーリアンがインドに移動する途中で留まった系統なのかは、もっと調査が進み子亜型/孫亜型などがはっきりしてくると 解明されるはずです。 また少数ですがモンゴル帝国の名残のY-DNA「C」も残っています。

4.シャプスグ(Shapsugs)人
  最もY-DNA「G」頻度の高い民族ですが、現存人口約8000人の半数以上は現在イスラエルに居住しています。つまりユダヤ教徒になります。 ロシアのAdygeiに残りは居住しているようですが、こちらはスンニ派イスラム教徒だそうです。

5.オセット人(Ossetians)
  コーカサス紛争で話題になるオセット人は調査地域によって出現頻度がかなり変わります。東方正教会(Eastern Orthodox)もあれば スンニ派イスラム教もあります。 遺伝子の地域差が大きく、Y-DNA「I」や「J2」が多い地域もあれば、「F」が多い地域もあり、 古代から紛争の中心地であり、遺伝子が入り乱れてきたことが十分に推測できます。

6.アルメニア(Armenians)人
  調査により大きく出現頻度が変わります。WealeのデータはY-DNA「G」が基本で、そこにY-DNA「R1b」が交配している結果が 見事に出ていますが、他の論文では、「J2」、「I」や「R1a」が主要遺伝子になっています。アルメニアもオセット同様古代から 戦争や紛争の土地であったことが読み取れます。

7.ジョージア(グルジア)人
  スターリンの出身地ですが、Y-DNA「G」にY-DNA「J2」がかなり交配しており、メソポタミア農耕文明は「J2」と「G」によって 興ったと考えられているので、いずれにせよこのコーカサスの黒海沿岸の低地で農耕の芽が育ち、移動先の肥沃な三角地帯メソポタミアで 農耕の花が開いたと考えるとありそうな話です。

8.チェチェン(Chechens)人
  チェチェン紛争で知られる民族ですが、Y-DNA「J2」と「J1」が主要な「J」遺伝子民族になります。イスラム教ですが、 どの宗派にも属さないムスリムも多く、スンニ派のシャーフィイー学派もあり、なかなか難儀な土地のようです

9.アゼルバイジャン(Azerbaijanis)人
  カスピ海沿岸の低地に望むコーカサス一帯では最も平地の多い土地になります。 そのためかメソポタミア農耕民系遺伝子のY-DNA「J2」が主要遺伝子になっています。

10.クルド(Kurds)人
  オスマン帝国の解体後に一時期クルディスタン王国が、戦後一時期クルディスタン共和国ができたが、 いずれも大国の思惑で瞬間的にできた国家で終わってしまいました。 遺伝子的にはトルコ国内に包含される本家クルディスタンのクルド人の調査結果がないため主要遺伝子が何なのかは残念ながら わかりません。

以上
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